家づくりの考え方 今と昔──変わる暮らしと価値観のカタチ

家づくりの考え方 今と昔──変わる暮らしと価値観のカタチ

投稿日:2025年9月30日 / 最終更新日:2025年11月26日

家づくりの考え方 今と昔──変わる暮らしと価値観のカタチ

家は人の暮らしを支える最も大切な器です。時代が移り変わるにつれて、家に求められる役割や価値観も大きく変化してきました。かつての「家づくり」は、家族のつながりや地域との関係性を重視したものでしたが、現代の「家づくり」はライフスタイルや個人の価値観を反映するものへとシフトしています。本稿では、昔と今の家づくりの違いを振り返りながら、これからの住まいのあり方について考えてみたいと思います。

昔の家づくり──「家族と地域を守る城」

戦後から高度経済成長期にかけての日本の家づくりには、いくつかの特徴がありました。

第一に「家族の拠点」という強い意識です。かつては三世代同居が当たり前で、祖父母・親・子どもが一つ屋根の下で暮らすのが自然な姿でした。そのため、家はできるだけ大きく、広い座敷や客間を備え、親戚や地域の人々を迎え入れることを想定して建てられていました。

第二に「地域性と素材へのこだわり」です。地元で採れる木材や土を使い、地域の大工や職人が腕を振るって建てるのが当たり前でした。そこには「この家を子や孫の代まで住み継いでいく」という意識が強く、修繕を重ねながら長く使う文化が根づいていました。

第三に「一生に一度の家づくり」という考え方です。人生で一度だけ家を建て、そこで生涯を終える──そんな価値観が主流だったため、リフォームや建て替えはごく限られたケースに過ぎませんでした。

当時の家は、家族の絆や地域とのつながりを象徴する存在であり、社会の価値観そのものを反映した「城」のような役割を担っていたのです。

今の家づくり──「自分らしく暮らすための道具」

一方で現代の家づくりは、まったく異なる方向に進んでいます。

第一に「家族のかたちの変化」です。核家族化が進み、夫婦と子どもだけで暮らす家庭が主流となりました。また、共働き世帯が増えたことで、家は「家族が一緒にいる時間をどう快適に過ごすか」を重視する空間に変わっています。三世代同居は珍しくなり、代わりに「それぞれの時間と空間を大事にする」間取りが求められるようになりました。

第二に「性能や快適性の重視」です。高気密・高断熱、耐震性能、省エネ性能など、科学的な裏付けを持つ住宅性能が家選びの大きな基準となっています。かつては自然と共生する工夫で暑さ寒さをしのいでいましたが、今は住宅設備の進化によって、一年中快適に暮らせる環境を実現できるようになりました。

第三に「柔軟な家づくり」です。人生100年時代と言われる今、一度建てた家に一生住み続けるとは限りません。子どもの独立、仕事やライフスタイルの変化に応じて、リフォームやリノベーションを行いながら暮らしをアップデートする考え方が一般化しています。賃貸や中古住宅購入を経てリノベーションする人も増え、新築だけが家づくりのゴールではなくなっています。

現代の家は「家族を守る城」から、「自分たちらしい暮らしを実現する道具」へと役割を変えているのです。

家づくりの価値観の変化

昔と今の違いを整理すると、次のようにまとめられます。

  • 昔の家づくり
    • 家族や地域とのつながりを最優先
    • 地域の素材と職人の技
    • 一生に一度の家
  • 今の家づくり
    • 個人や家族のライフスタイルを重視
    • 性能・快適性・省エネ
    • 柔軟に変化させる住まい

言い換えれば、昔は「家族や地域のための家」であり、今は「自分たちの暮らしのための家」と言えるでしょう。この価値観の違いは、社会の変化とともに必然的に生まれてきたものです。

これからの家づくりに求められるもの

では、これからの家づくりはどのように進んでいくのでしょうか。

第一に「サステナビリティ」です。環境問題への関心が高まる中で、再生可能エネルギーの利用や断熱性能の向上は欠かせません。資源を大切にし、未来世代にも負担を残さない家づくりが求められます。

第二に「暮らしの変化に対応できる柔軟性」です。可変性のある間取りや、リノベーションを前提とした設計が重要になります。ライフステージに合わせて住まいを変えていく発想が当たり前になるでしょう。

第三に「心の豊かさを育む空間」です。単に性能や便利さだけでなく、居心地の良さやデザイン性も大切です。自然光を取り入れる窓の配置、木の温もりを感じられる素材選びなど、人の五感に寄り添う工夫が求められます。

これからの家は「快適さ」と「環境への配慮」と「心の豊かさ」を兼ね備えたものへと進化していくのだと思います。

まとめ──家は「生き方を映す鏡」

昔の家づくりが「家族と地域を守る城」だったのに対し、今の家づくりは「自分らしく暮らすための道具」としての側面が強くなっています。価値観が変わったからこそ、家づくりの形も変わりました。

しかし、どの時代にも共通しているのは「大切な人と安心して暮らす場所である」ということです。家は単なる箱ではなく、生き方を映し出す鏡のような存在です。これからの時代、家づくりにおいても「どんな人生を送りたいか」という問いに向き合うことが、最も大切になっていくのではないでしょうか。

著者プロフィール 
橋本 海知(はしもと かいち)

つくば住宅工房株式会社 代表 / 住宅プロデューサー

国家資格

二級建築士、石綿作業主任者、石綿含有調査者

技術資格

既存住宅状況調査技術者

福島県出身。幼少期から家づくりに関心を抱き、「劇的ビフォーアフター」などの番組に背中を押されて建築への道を志す。高校では建築科に進学し、設計製図や構造の基礎を学びながら、「建築家としての感性」を育んできた。

新卒時には現場監督として住宅建築に携わり、職人との協働を通じて現場力・統率力を身につける。その後ログハウスメーカーで構造、施工、設計、営業と多岐にわたる経験を積む。営業時代には「お客様との対話」によって、商品や仕様のこだわりが伝わることの大切さを痛感。やがて起業を決意し、つくば住宅工房を設立。

家づくりにおいて何よりも重視するのは、「言葉にならない想い」をすくい取り、家という形に昇華させること。リフォーム・リノベーション・新築を問わず、常に「住み続けるほど好きになる家づくり」をミッションに掲げ、クオリティと誠実性を第一に提案を行っている。

  • 専門領域・関心分野
  • リノベーション/リフォーム
  • インスペクション
  • 耐震診断、温熱計算
  • 中古住宅の価値再生
  • 高性能住宅設計
  • 補助金制度活用・コスト最適化
  • 顧客との対話を重視した設計提案

メッセージ

「家は人生をゆたかに包み込む舞台である」という信念を胸に、家そのものを育て、住む人の想いを反映する住まいを共につくっていきたいと願っています。ブログでは、住宅の技術的知識から心の動きを捉える対話まで、幅広くお伝えしていきます。」

橋本 海知(はしもと かいち)

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